鏞記(ユンキー)で焼鵝叉焼飯のランチ |
鏞記(ユンキー)は中環のウェリントン街にあります |
香港の中環(セントラル)は世界を代表するビジネス街です。 ですけれども、大通りからちょっと裏に入ると、庶民の生活が一遍に顔を出してしまいます。それが中環のもう一つの魅力でもあります。レストラン鏞記(YUNG KEE、ユンキー)があるこの通りは威霊頓(ウェリントン)街といって、皇后大道に沿って山側に走っている通りで皇后大道から二本目の道です。この通り沿いにはB級グルメ店が並んでいます。 そうなんです。ここは、中環からすぐ行けるB級グルメ通りなのです。ロースト(焼味)の名店、鏞記(ユンキー)があるのはこの威霊頓(ウェリントン)街です。鏞記酒家はガチョウのローストで有名な店ですが、もともとは焼鵝飯(ガチョウのローストご飯)の小さな店舗が出発点です。恐らくはその焼鵝飯(ガチョウのローストご飯)の時代から、この威霊頓(ウェリントン)街に店舗を構えていたのでしょう。 |
鏞記(ユンキー)の話をする前に、この威霊頓(ウェリントン)街の名店をいくつか紹介します。いずれもB級グルメのランチとかおやつに向いている食堂です。 まず、エビワンタンメンで有名な「沾仔記」です。上の写真は午後の4時くらいなんですが、お客さんが沢山入っています。この店は向かいにあるマックズ・ワンタンメン・ショップと並んで、エビワンタンメンを食べさせてくれる人気店です。 ここ沾仔記のワンタン麺は香港の伝統的なエビワンタン麺で、ゴムのような麺です。20数年前に初めてこの麺を食べたときには、日本の麺との違いにそれこそ面喰いました。でも、その後食べ慣れてくると、このゴムのように噛み切りにくい麺の食感や味が懐かしくなって、わざわざ日本から香港までワンタン麺を食べに来たくなってしまうのでした。その麺にプリプリのエビワンタンがたくさん入っているのです。人気が出るはずです。 |
上の写真はマックズ・ワンタンメン・ショップです。ワンタンだけなら、向かいの「沾仔記」もいいけど、スープはこちらの方が私は口に合います。ワンタンメンなら、私の一番のおすすめ店です。ただ、量が少ないからちょっとしたおやつ代わりですね。ランチで食べたいというときは沾仔記が良いでしょう。 |
上の写真はマックズ・ワンタンメン・ショップのワンタンメンです。日本で言うとエビワンタンメンですが、メニューではワンタンメンとなっています。 プリプリしたエビも旨いし、コシのあるゴムみたいな麺も美味いし、加えてこの店はスープも美味いのです。何回か食べているうちに癖になってしまって、香港に来たらワンタンメンを食べに来ないと気が済まなくなります。ここウェリントン街に来れば、この二店に加えて、次に紹介する黄枝記もありますから、ワンタンメンはよりどりみどりです。 |
ウェリントン街の名店をもう一つ紹介します。黄枝記です。黄枝記はマカオに本店を持つ粥麺の専門店です。正しくは黄枝記麺家です。麺店(ラーメン屋)を標榜しているわけです。といっても、日本のどこにもある中華料理屋さんと同じでメニューは豊富です。ラーメンだけで20を超える選択肢があり、焼きそばもあれば、ワンタンもあれば、餃子などの点心があり、酢豚のような一品料理もあります。日本の中華料理屋の原点はこの黄枝記にあるのではないか、と思いたくなるようなメニュー構成です。 |
黄枝記ではワンタンやワンタンメンも人気商品ですが、何と言っても有名なのは蝦子撈麺です。私の大好物です。黄枝記に来ると、エビワンタン麺か、この蝦子撈麺を主食にするのが私の定番です。 「撈麺(ロウメン)」とはスープなしのラーメンのことで、ゆでた後すくい上げただけの麺です。蝦子撈麺は「蝦子」(エビの卵)を乗せた撈麺で、よくかき混ぜて食べます。そうしますと、えびの卵が麺全体にまぶしたようになるわけです。これは美味しいです。 蝦子撈麺を食べながら、エビワンタンをつまみ、エビの出汁がよく出ているエビワンタンスープを飲む、このエビづくしのランチ、黄枝記ならではの食事です。とっても贅沢ですけど安いんです。 |
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鏞記(ユンキー)で焼鵝叉焼飯のランチ |
そんなわけで威霊頓(ウェリントン)街に来ると、どこで食べようかといつも思い悩みますが、今日は鏞記(ユンキー)を選択しました。 上の写真は鏞記(ユンキー)の一階です。二階以上はちゃんとした中華料理を食べるスペースで一階は軽食とか単品料理でも使えるスペースです。このフロア構成は20数年前に私が初めて鏞記酒家に来た時から変わっていませんが、当時と違うのはこの内装です。こんなに豪華じゃなかったです。特に一階は食堂スタイルですから、今の街中の焼味屋さんと変わらない殺風景さでした。その代わり、焼鵝飯(ガチョウのローストご飯)も私の記憶が正しければ30香港ドルしなかったと思います。今の20%くらいの価格です。鏞記酒家の原点は焼鵝飯(ガチョウのローストご飯)の食堂ですから、その原点が当時は残っていたということも言えます。 今は人気も出てしまったので、高級店として強気の価格を設定しています。 |
調理場は一階のテーブルから見ることができます。ローストされた食材は通りに面して飾られていますので、奥の方に見えます。 私もかつてはこの鏞記酒家によく来たものです。家族で名物のガチョウのローストを食べに来たり、ランチにガチョウのロースト乗せご飯を食べたりしました。でも、正直に申し上げると、当時私の周りではこの鏞記酒家について、おいしい、また行きたい、といった声は殆ど聞かれませんでした。香港在住の日本人の間では、鏞記酒家で食べるなら別の店で食べたいという人の方が圧倒的に多かったのではないでしょうか。脂っこくてもう一つ好きになれなかったのです。また、ロースト以外の料理は極めて平凡で、当時から二階以上のフロアでの価格は高かったですから、コストパフォーマンスで考えると、別のレストランを選択してしまっていたのです。 |
そんな過去の記憶もあって、私が鏞記酒家に来るのは実は10年ぶり以上です。一階のテーブルについてまずびっくりしたのは飲み物を聞かれたことです。かつては焼鵝飯単品だけでよく食べていましたが、今はソフトドリンクかお茶を別途注文しないといけません。しかもドリンクメニューも見せてくれません。しょうがないから北京語で質問してお茶の種類にはいろいろあることも分かりましたので、油を落とすため普洱茶を注文しました。お茶は15元、ソフトドリンクは25元でしたでしょうか。 |
待つこと10分くらいで料理が出てきました。食堂の時代と比べるとずいぶんと体裁が良くなっています。私としてはぶっかけご飯、すなわちご飯の上にローストが乗っているものを想像していたのです。かつてはそうだったですから。 因みに今回注文したのは、焼鵝叉焼飯(ガチョウのローストとチャーシューご飯)です。他の焼味店では、ガチョウとガチョウ以外とは価格が違うのですが、鏞記酒家ではすべて同じ価格です。ガチョウのロースト単品にしようかと思いましたが、10年以上ぶりの訪問ですから、やはり二種類にしてしまいました。 |
あくまでも私の記憶ということで言うと、以前より油っこさがなくなりました。日本人にとっては食べやすいですが、生粋の香港人にとってはどうなのでしょうか。ガチョウについて言えば、確かに街中の焼味屋と比べるとかなり肉質が良くて、肉を口に放り込んでひと噛みした時のジューシーさはさすがだと思います。この水準のガチョウを食べさせてくれる店は甘牌焼鵝くらいかも知れません。ガチョウのローストの素晴らしさには最初のジューシーさに加えて、噛めば噛むほど味が出てくる奥の深さもあります。噛めば噛むほど味が出てくる奥の深さという点については調理法によるようで、街の大衆的な焼味店でも美味しい店はいくつかあります。 |
一方、チャーシューについては、写真ではガチョウの下に隠れていて左の方にちょっとだけしか見えていませんが、量的にはガチョウのローストと同じくらい入っています。はっきり言ってこれは平凡です。もちろん水準的には香港でも上の部類の美味しさであることは間違いないですが、街中の焼味店の2倍から3倍している割には、その有意差はありません。 |
それと、今回は注文を忘れてしまいましたが、鏞記酒家に来たら必ず注文していたのが、皮蛋と甘酢ショウガです。上の写真は、この後紹介する甘牌焼鵝で食べたもので、これと同じメニューが鏞記酒家にもあるはずです。 トローリとした本格的な味のピータンです。かつて鏞記で私が唯一気に入っていたのが、このピータンと甘酢生姜だったなあということを忘れていました。隣に来た年配の香港人女性がこれを注文していて思い出しました。 |
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甘牌焼鵝のローストご飯 |
実は、先ほどから何回か話に出ている甘牌焼鵝は鏞記酒家の創業者の孫が始めた店で、2014年に湾仔に開店して1年にも満たないうちにミシュランの一つ星を取ったぶっかけご飯の食堂です。 価格は街中の焼味店の倍くらいですが、鏞記酒家の3分の2くらいで、味的には焼鵝飯は鏞記酒家と同じくらい、焼鵝以外は明らかに甘牌焼鵝の方が美味しいと私は思います。鏞記酒家が高級路線を走る中で、甘牌焼鵝には鏞記創業時代の食堂スタイルを堅持して、美味しいローストをできるだけ安く提供しようとする意図が見えます。 私の個人的な意見では、ローストご飯を食べるなら鏞記酒家よりは甘牌焼鵝がおすすめです。 |
上の写真は甘牌焼鵝の焼鵝焼肉飯(ガチョウのローストと豚のバラ肉のロースト乗せご飯)です。 ガチョウのローストは皮のパリパリ感が見た目にもわかります。食べてみると、パリパリに焼けた皮、肉汁がジュワッと口の中に広がる肉、素晴らしいの一言です。そして、脂っこさを全く感じさせません。美味しいです。食べた瞬間にミシュラン一つ星が伊達ではないことがよく分かります。 そして、豚のバラ肉のロースト(焼腩)も、皮はパリパリ、肉汁ジュワッです。広東料理で人気のある高級なローストに子豚の皮のロースト(化皮乳豬)がありますが、その化皮乳豬のような皮です。パリパリとバリバリの間くらいの食感です。この食感が素晴らしいのです。また、写真からも分かるように、とろけるような肉、口の中にあふれ出る肉汁にも感激します。 これに、皮蛋と甘酢ショウガ、それにスープをつけて、ランチタイムならHK$72です。倍の値段を払ってでも食べたい焼味です。 |
甘牌焼鵝のセットには、今紹介した「ガチョウのローストと豚のバラ肉のロースト(焼腩)」以外にも、チャーシューや白切鶏(蒸し鶏のネギソースかけ)などとのセットもあります。 この日食べたのは「豚のバラ肉のロースト(焼腩)と白切鶏(蒸し鶏のネギソースかけ)のセット」です。手前が豚のバラ肉のロースト(焼腩)で、これは確かに安定した味で間違いなく最高に美味しいです。では、白切鶏はどうでしょうか。写真で見ると美味しそうな白切鶏です。食べてみると確かに美味しいです。こういったロースト屋ばかりでなく香港のきちんとしたレストランでもよく白切鶏を食べる機会の多い私ですが、甘牌焼鵝の白切鶏の味はその中でも抜きんでて美味しいと私は思います。 こうして見てくると、鏞記酒家と甘牌焼鵝とでは、美味しいガチョウのローストを食べさせるという点では似ていますが、鏞記酒家は広東料理レストランとして様々な広東料理の一つとして焼鵝を食べさせる店を志向している一方で、甘牌焼鵝は焼鵝に限らず香港一美味しいロースト食堂というものを志向しているように思えます。ですから、ランチでローストを食べるなら文句なしに甘牌焼鵝ですし、ディナーの中でローストを食べるなら鏞記酒家という使い分けになるのかななんて思います。 |