揚州の庭園、个園(個園)の春の景|アジア写真帳(揚州)

(2015年4月5日以来)

个園(個園)の春の景|アジア写真帳(揚州)YANGZHOU


 个園は揚州随一の名園


 中国江南地域には多くの中国庭園があり、特に蘇州には、拙政園留園網師園といった素晴らしい庭園が多いことが知られています。これらの庭園は「蘇州古典園林」と呼ばれ、多くは明の時代に造られた庭園です。
 一方、清の時代、塩の流通で富を築いた揚州の繁栄を描写した言葉に、「揚州は庭園をもって勝る」、「車馬は船より少なかり、庭園は宅より多かり」などといったものがありますが、清代の揚州には多くの庭園があったと言われています。これらの庭園の多くは、太平天国の乱、辛亥革命、国共内戦や日中戦争といった相次ぐ戦争の中で焼かれて喪失してしまったわけですが、いくつか戦災を免れた庭園もあって、その中で个園(個園)は最も代表的な庭園です。
 揚州の庭園の多くは、清の時代に造られたことから、狭い敷地に立体的に構成されていること、したがって建物が二階建てになっていて狭い空間を様々な角度から見せることにより変化をもたせていること、巨大な太湖石があまり使われていないないこと(清の時代には、既に太湖石は掘り尽くされていて手に入らなかった。)、などが特徴です。


 个園(個園)という名前にある「个」という字は、竹の象形文字で、これを左右に二つ並べると今の「竹」という字になります。
 この个園を造った清の時代の塩商人、黄応泰は竹を愛していたといわれていますが、その理由を「竹の幹は『虚』であり、それ故に何にでも応じられる。また、竹は『堅固』であり、かつ『直』であり、人間の心構えにも通じるものである。」としています。それ故に、黄応泰は庭園を个園と名づけたとされています。
 个園の入口を入ると上の写真のように立派な竹林がありますが、そんな庭園の名前の謂れを聞くと、ますますこれらの竹が美しく見えてしまいます。

 

 上の写真の池周辺は、最近整備されたところで、もともとの个園の範囲ではありませんが、なかなか感じの良い景色です。


 个園の入口から、本来の个園の園内までは長いアプローチがあって、竹林やさきほどの池を通り過ぎ、上の木蓮の並木道まで来ると、いよいよ本来の个園の入口はすぐそこです。この木蓮の並木道から个園が始まるといったほうが良いと思います。


 昼でも暗い木蓮の並木道を抜けると、円洞門の上に「个園」と書かれた入口が現われます。ここが「个園、春の景」といわれているところで、日当たりの良い明るい場所に高い竹の木が数多く植えられています。そして、筍をイメージした石筍が両側に配置され、まさに春を感じさせる景となっています。


 この写真を見ると、石筍が竹の子をイメージして置かれていることが分かると思います。石筍は中国庭園でよく使われている石ですが、自然の竹とこれほど見事に調和しているところは、他では見たことがありません。


 円洞門をくぐると、また、木蓮の木が植えられ、その下を黄石で導かれた通路が続いています。このあたりの石組みは立派で、木蓮の並木道から円洞門を抜けてこのアプローチを通ってくると、その変化や庭園の構成力に、心がわくわくしてしまいます。道の先に見えるのが宜雨軒です。



 

 揚州・个園の「春の景」


 宜雨軒です。个園の中央に位置している建物で、下の写真のように四面がガラス張りとなっていますので、庭全体をここにいながらにして見ることができます。

 个園の特徴に「四季の景」があります。
 个園の案内書によれば、「春の景」は「色気があって美しく微笑んでいるかのよう」であり、「夏の景」は「濃い緑でしずくが垂れる」ようであり、「秋の景」は「化粧をしたように明るく美しく」、「冬の景」は「眠ったように薄暗い」といったように特徴を見せています。「春の景に遊び、夏の景を眺め、秋の景に登り、冬の景に眠るのが良い」というのが、个園の「四季の景」の設計思想であり、この「四季の景」を、个園の中央に位置している宜雨軒は、四面をガラス張りにすることによって、いながらにして味わえるようにしているのです。


 宜雨軒の正面には、个園の主楼である抱山楼が見えます。
 抱山楼は、その両側に夏山と秋山という二つの山を抱えていることから、抱山楼と名づけられています。なお、抱山楼に掲げられている「壷天自春」は、「个園の空間は有名な山や川に及ばないが、ここにある景は桃源郷である」という趣旨で个園を詠っている詩の題名に由来しています。


 抱山楼から池越しに見る宜雨軒の建物です。黒い瓦と濃い茶色の壁が、美しい中にも落ち着いた雰囲気を漂わせています。


 宜雨軒の前から、清漪亭方面を見たところです。
 个園の楽しみ方は、春の景から宜雨軒に来て、そこでガラスの窓越しに个園全体を見渡します。その後、夏の景、秋の景、冬の景の順番に見て行き、最後に清漪亭に戻ってきて、个園全体をもう一度見渡す。そんな順路で主人は客人を案内したものと思われます。


 宜雨軒の前から、清漪亭とは反対方向を見ると、太湖石の築山が見えますが、これが「夏山」「夏の景」といわれているところです。それでは、次のページで个園の「夏の景」を紹介しましょう。