芸圃は蘇州の住宅街にある洒落た庭園 |
蘇州古典園林の一つ、芸圃は蘇州城内の西に所在する明代末期に創設された庭園です。ユネスコの世界遺産にも登録されている名園ですが、蘇州では拙政園や留園といった名園が多く、日本のガイドブックでは名前こそ記載されているものの、その詳細については殆ど記載されていません。 私は二回ほど芸圃に行きました。まず困難を極めたのが場所が分からないということです。上の写真の通り、芸圃の入口は住宅街の細い入り組んだ小道に面しています。入場券売場の看板が出ていますが、それ以外に何も案内看板がありません。世界文化遺産なのですから、入口の前まで広い道路がつながっていて、バスも止まれる広い駐車場があるのだろうと思っていたのですが、大きな勘違いです。 目印はこの風景だけです。道を迷いながら、そろそろ諦めようかという頃、いつも芸圃前のこの光景が見つかります。 |
芸圃の入口です。 入場券売場に行っても係員がいつもいません。入場券売場の係員を探し出し、入場料10元(2010年8月現在)なりを支払って中に入ろうとすると、入口で地元のおじさんに連れられたかわいい犬がお出迎えです。 実は、この芸圃はユネスコ世界遺産ではあるけれども、観光客の姿はほとんど見かけません。上海から日帰りで来る人は、拙政園、留園や虎丘あたりを見て帰ってしまうでしょうし、まあ、二泊くらい蘇州に滞在する人がようやく芸圃まで行く時間ができるのでしょう。 でも、私は蘇州観光に来た人には拙政園や留園といった大庭園は必ず見てほしいと思っていますが、狭いながらも中国庭園の美が凝縮された網師園、清代末期の私家庭園である耦園やこの芸圃についてもぜひ見てもらって、蘇州古典園林の多様性・面白さを味わってもらいたいと思っているのです。 |
この狭い導入路を抜けることになります。なかなか古風な雰囲気です。導入路ですから、視界がなく、これから行く庭園がどのようなものか、期待感がわくわく沸いてくるところです。 |
導入路にあった小さなオブジェです。可愛らしくて品の良いオブジェです。 |
上を見上げれば、屋根から花を咲かせたつるバラが垂れてきています。バラの花が咲いている中国庭園というのは、少し珍しいかななんて思います。 |
バラをアップで写してみました。綺麗なバラですね。 |
導入路の曲がり角には、石筍を使ったオブジェがあって、つるバラの花という斬新なアイデアと相対するように古風な雰囲気をかもし出しています。 |
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芸圃の乳魚亭と池の景 |
視界の効かない導入路を抜けると、一気に広い空間が現れ、手前に乳魚亭という明代末期の建物、奥に池が広がります。 |
上の写真は池越しに乳魚亭を見たところです。乳魚亭は池にせり出すように建てられ、周辺の景色によく調和して溶け込んでいます。なお、乳魚亭は先ほど書いた通り明代末期の建造ですが、現存している蘇州の庭園でも最も古い建物の一つだそうです。 |
さて、乳魚亭からの景色を見てみましょう。中国の庭園というのは、至る所に見学ポイントがあります。例えば、この乳魚亭のような亭、橋、築山といった建造物には、そこで足を止めて景色を見渡してもらいたいという設計者の意図があります。 上の写真は乳魚亭から池正面を見たところです。池の水が綺麗で建物の影が池に映ります。雰囲気としては、池の大きさも同様の蘇州の網師園に似ていますでしょうか。中央小舟のところに回廊が少し広くなっているところがあって、恐らくそこが何らか庭を鑑賞するポイントであることが分かります。右側の建物が平屋建てなので、全般的に広々とした圧迫感のない構成になっています。 |
目を左に移すと、こちらは手前に太湖石を積み上げた築山、橋、端の向こうに高い塀に囲まれた空間が見えます。塀に円洞門があることから、庭園が塀の奥に続いていることが分かります。池の構成として、左に太湖石を使った築山で自然を感じさせ、正面から右に人工の建造物を集めるという池周辺の配置は、網師園と共通しています。 |
右側の平屋建て建物は池の上に建てられていて、現在は茶室として使われています。庭園を一回りして、その雰囲気にゆったりと浸るのには、絶好の場所です。 |
乳魚亭対岸の響月廊です。池を見る場所として少しだけ回廊が広くなっている部分があって、その前に小舟が泊まっています。また、回廊の奥が空窓になっていて回廊の向こうの林が見えます。 |
乳魚亭から、時計回りに池を回ってみましょう。まず、築山の方を回ってみましょう。築山の上に亭が見えます。まず、そこを目指しましょう。 |
築山の上に建てられている六角亭です。その名の通り六角形の亭です。夏の季節で木が生い茂っていたものですから、この時期、あまり見晴らしが良いということはありませんでした。 |
築山を下りて、池沿いに歩いてみます。まず、少し反った橋があって、その先は太湖石の小路です。ここから見える風景は、どこか広い湖か海の岸辺のようです。 |
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芸圃の水辺には、程よく花が植えられていて、いつの時期に行っても可愛らしい花が水辺の景に彩りを添えています。センスの良さみたいなものを感じさせます。 |
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響月廊 |
乳魚亭の対岸にある響月廊です。机が置いてある場所だけ、回廊が広く取られていて、そこから池や月を眺めたのであろうということが想像できます。池の反対側の回廊の壁には漏窓(模様が付けられたガラスなしの窓)が並んでいます。回廊が直線的なのが、変化に乏しくちょっと残念です。 |
響月廊です。 床は平坦で変化に乏しいですが、その分、美しい鋪地(敷石)を敷き詰めて独特の雰囲気を作り出しています。また、天井のデザインがとても美しく印象的です。細かなところに気を配った設計ですね。 |
響月廊の中央にある空窓です。奥の木々を窓の額縁の中に入れて見せています。 響月廊の「響」という字には楽しむという意味があり、響月廊を日本語に直せば「月を楽しむ回廊」という意味になります。夜、柔らかな月光が池や周りの庭園を照らし、池を渡る風が空窓の向こうの竹林を揺らす。世俗の汚れを感じさせない純粋な自然をこの回廊では楽しみたい、そんな設計者の心が私には感じられます。 |
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響月楼をさらに先に進んだところから対岸を眺めてみました。乳魚亭の左に植えられた木々が清潔感を感じさせます。太湖石の護岸も美しいですね。それと、ここ芸圃の場合は、花が所々で効果的に使われていて景観に変化を付けていることがわかります。 、 |
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芸圃に来たら茶館に行こう |
茶館です。 ユネスコの世界文化遺産にある茶館とは思えないローカルムードたっぷりの茶館です。お客さんはこの二人しかいません。地元の人がトランプに興じているのでしょう。何とものどかな光景です。 窓の外には、芸圃の景色が広がります。築山の正面に当たる位置に建てられていますから、特に築山方面の眺めが良いところです。 |
茶館から見た乳魚亭と築山方向です。 確かに、この茶室から見る風景が芸圃の一番良い景色なのかもしれません。正直申し上げて、ここまで素晴らしい風景が広がっているとは思いませんでした。 |
少し視野を広げると、こんな風景になります。芸圃の池周辺の見所を見渡せる素晴らしい位置に、この茶館の建物は建っているわけです。私がこの建物の用途について思うには、もともとは来客用の食堂、もしくは家族の食堂、居間だったのではないでしょうか。庭の眺めの最も良いところにこうした部屋を設けるのはよくあることです。 |
池の水面に目を移せば、水鳥が水面に遊び、池の中では立派な鯉が元気に泳いでいます。何と平和な風景なのでしょうか。 |
後日、朝早い時間に芸圃に来た時の茶館です。見たところ、10あるテーブルがほぼ満員の様子です。一つだけテーブルが空いていたので、そこに席を取って1時間くらい物思いにふけりました。因みに、お茶は龍井茶や碧螺春が12元、緑茶は8元でした。(2012年5月)この価格でこの風景を何時間にもわたって見ていられるなどというのは、まさに贅沢な時間です。 朝のこの時間は、どうやら地元の老人たちが顔を合わせる時間のようで、私以外のテーブルは殆どがお互いに名前や顔を知っている地元の方々のように見えました。茶室の中はかなり賑やかですが、それはそれで茶室らしくて良い雰囲気です。 小さいけれど完成された美しさを持つ庭園、芸圃。そんな芸圃を見ながら、そして、茶室での賑やかな話し声を聞きながら、至福の時間が過ぎていきます。 |
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ほとんどお客さんのいないこの芸圃の園内で、乳魚亭の中が賑わっています。観光客でも来たのでしょうか。 |
一家で来ている方々のようです。蘇州の地図も見ていましたので、地元の方ではないようです。この芸圃は外人客はもとより、中国人の観光客の姿もほとんど見かけません。しっとりとした庭園で、中国庭園の美しさを静かに堪能するには良いところなのですが、……。 |
乳魚亭に戻り、また、池周辺を見渡してみます。よく言えば落ち着きのある庭園です。 それでは、さきほど通過した左の壁に囲まれたエリアも含め、池周辺以外のところをまわって見ましょう。 この続きは、次のページ「博雅堂と東莱草堂」で紹介します。 |
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