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蘇州古典園林(中国庭園)の楽しみ方|蘇州古典園林の魅力

(2010年5月1日以来)

蘇州古典園林(中国庭園)の楽しみ方SUZHOU

蘇州と蘇州古典園林

蘇州、拙政園の借景

拙政園の北寺塔借景


 古都蘇州の目玉は、何と言っても中国庭園です。蘇州古典庭園、蘇州古典園林などとも言われます。
 蘇州の庭園では、拙政園留園獅子林、そして滄浪亭が四大名園と言われています。ユネスコの世界文化遺産にも登録されています。また、蘇州の拙政園と留園に、北京の頣和園と華北省承徳市にある避暑山荘を加えて、中国四大名園と言います。

同里・退思園の池の景


 蘇州にはこの四大庭園以外にも、見逃せない庭園があります。網師園耦園芸圃といった庭園です。これらの比較的こじんまりした庭園も、味わい深い趣きがあり、見逃せないスポットです。さらに、バスに30分ちょっと乗れば、同里古鎮に退思園もあります。退思園は、蘇州の庭園に負けず劣らずの庭園で、私のお気に入りでもあります。これらの庭園もまた、ユネスコの世界文化遺産に登録されています。
 一方、蘇州から少し離れますが、揚州にある古典園林も中国庭園のファンなら一度は訪れたい場所です。个園何園といった清代に作られた素晴らしい庭園があります。

留園の池で中国琵琶を弾く女性

留園の池で中国琵琶を弾く女性


 蘇州観光というと、上海からの日帰りなどで済ましてしまう人が多いようですが、これだけ多くの価値のある中国庭園があり、また、中国庭園以外にも虎丘や盤門などといった見所もある街ですから、できるだけ1泊、或いは2泊くらいして、蘇州という街を堪能してもらいたいと思います。
 


芸圃の池と乳魚亭

芸圃の池と乳魚亭


 百歩譲って言うならば、初めて蘇州を旅するのであれば日帰りでも仕方がないかなとも思いますが、その際であってもツアーに入っている留園や拙政園といった名園をただ漫然と見学するのではなく、中国の歴史やそれぞれの庭園ができた頃の時代背景について一定の知識を持ったうえで、庭園の設計者の心を感じながら庭園を回遊してほしいと思うのです。ですから、短い時間に幾つもの名所を回るツアーではなく、時間的にある程度ゆとりを持ったツアーに入って、一つの庭園をじっくりと見てほしいと思うわけです。
 そして、蘇州の庭園は面白い、感じるところがある、との印象を持ったのであれば、今度は蘇州で1~2泊して、じっくりと蘇州の街を堪能してほしいのです。

耦園の美しい漏窓

耦園の美しい漏窓


 このページでは、蘇州の中国庭園(蘇州古典園林)を楽しむポイントについて説明します。私は庭園の専門家でもなければ旅行業の関係者でもありません。したがって、難しいことは説明できませんが、皆さんが蘇州の庭園を見て良かったなと感じていただけるよう、見学にあたっての基礎知識みたいなものが理解されたら幸いです。



中国庭園を楽しむ視点


拙政園の梧竹幽居と回廊

拙政園の梧竹幽居と回廊


 私は中国庭園を楽しむにあたって、次の2つの視点から、楽しみ方や回り方を考えます。拙政園にあてはめて紹介しましょう。

1.その庭園のテーマが、自然景観にあるか、建築景観にあるか。
 拙政園の場合は、自然景観を中心とした庭園です。自然景観を見せるために建築物があるという考え方です。建築物は、多くは「景観の良い場所」「回廊・橋など回遊するための道」「宴席や休憩の場」といった理由で、あるべくしてあるものです。ですから、まず、建築物があれば「景観の良い場所」である可能性が高いので、そこから四周を眺めてみる価値があります。
 また、庭園には、必ずいくつかの平台(通常は石でできた平らな台で、建物の前などで眺めが最も良い所に設置されます。)というのがあります。その平台からの眺めは庭の設計者が最も見てもらいたい景色ですので、見逃さないようにしたいものです。さらに、橋や回廊が曲がっている際には、情景の変化というものを考えてその曲がり角度を設計しているのが一般的です。向きが変わることによる景色の変化を楽しんでください。
 こんな風に、歩きながら自然の景観(山水の景観)を五感で楽しむのが、拙政園を楽しむ一つの視点です。

網師園、殿春簃からの框景

網師園、殿春簃からの框景


 一方、建築景観を中心とした庭園では、第一に、建築の素晴らしさ・豪華さ、調度品の豪華さ・華やかさを楽しむべきです。そして、建築景観を中心とした庭園では、庭は一般的に比較的小振りのものになりますので、小ぶりなだけに精緻な設計がされていることが多いようです。網師園などはその典型なのですが、拙政園を見る感覚で歩きながら景色を楽しんだりすると、10分もかからないうちに見終わってしまいます。しかし、網師園の庭は、池の周りの造りが極めて繊細で、立ち止まりながら庭を見渡すと、その場所場所で異なった趣きを見せてくれています。この網師園と同じような傾向を持つのが同里にある退思園です。退思園の場合は、池の周りに見るべきポイントが凝縮されていて、その立体的な構成には素晴らしいものがあります。

同里の退思園、攬勝閣からの眺め

同里の退思園、攬勝閣からの絶景


 また、蘇州で最も人気のある庭園、留園については、半分が建築景観、半分が自然景観をテーマとした庭園になっています。とは言え、留園はとにかく豪華な庭園なので、どちらかと言うと建築景観主体の庭園と言って良いのかもしれません。留園の場合は、「これでどうだ。参ったか。」というくらいに豪華なものが多く、見所は尽きません。一つひとつの見所にこだわって細かく見ていくと、疲れてしまう庭園かもしれません。



滄浪亭の美しい回廊

滄浪亭の美しい回廊


2.設計者(または所有者)の心を考える
 拙政園や留園、網師園など、蘇州にあるいわゆる蘇州古典園林と言われている名園の多くは、文人の庭です。拙政園も、もとを質せば王献臣という明の時代の高級官僚、すなわち文人が設計した庭です。
 この時代は、宦官が政治を牛耳るなか、上に対して媚びへつらう者だけが立身出世し、正論を吐く者は排除されるという、文人にとっては暗黒の時代だったといえます。そうした時代に王献臣も左遷の憂き目に会い、蘇州でこの拙政園を作ることになるわけです。
 ここで拙政園という名前を考えてみましょう。「拙政」とは晋代の藩岳の著した「閑居賦」にある「拙き者之為政なり」からとったもので、「愚かな者が政治をしている」という意味です。ここから、王献臣としては愚かな為政者に対する隠者の庭として、この拙政園を作ったのだということが想像されます。隠者とは、世捨て人ではありません。とかく今の日本では左遷されてしまうと世捨て人みたいになってしまう人が多いようですが、王献臣は世捨て人ではなく、隠者になったのです。すなわち隠者とは、中央の政治から身を隠しつつも心と目は今の社会に向けられ、時節が来ればまた再起をしようという熱い志を胸に秘めている人のことです。

耦園の見事な築山

耦園の見事な築山


 このように、王献臣が隠者の庭として拙政園を作ったわけですから、その心が庭のあちこちに見えるはずだという考えで、庭園を見ていくのが二つ目の視点「設計者の心を考える」という視点です。
 しかしながら、こんなことを考えながら庭園めぐりをしたら疲れてしまいますので、私の場合はできるだけ事前にインターネット等で各庭園の歴史や構造などを調べておいて、設計者の心についてある程度イメージを作ったうえで、庭めぐりをしています。
 このページをご覧の皆さんは、このページの中で私なりに設計者の心を想像し記載していきますので、ある程度は参考になると思います。



中国庭園のパーツ

拙政園の水辺の景


 中国庭園を楽しむもう一つのポイントは、池、回廊、橋、石(太湖石と黄石がよく使われます。)、洞門、鋪地(敷石)や窓など、中国庭園のパーツとなるそれらの見所について、最低限の知識を持つことです。
 文人の庭というのは知識人の庭です。自分の心、自分の思いを庭園に反映させるため、中国庭園のパーツを巧みに組み合わせています。そうしたテクニックをいくらかでも感じることができる程度の基礎知識を持てば、中国庭園の楽しみ方は大きく広がるのです。

網師園の大池

網師園の大池


 まず、池から説明しましょう。
 池は庭園の景観に変化を付けるものですが、それ以外に次のような効果があると思います。
 1.遮る構築物や木々がないため、視界が広がる。
   例えば月を見るときに池越しに見るとよく見える。
 2.池に映る建物等の影を楽しむ。
   例えば、網師園の大池(上の写真を参照)などがその例です。
 3.蓬莱伝説に基づいて池を配置し、理想郷をイメージさせる。
   秦の時代に始皇帝の圧政から逃れた徐福の伝説に由来しています。
   詳細は他のページでも記載していますので、ここでは省略します。

滄浪亭の回廊の曲線美

滄浪亭の回廊の曲線美


 次に回廊です。雨が多く、夏になれば陽射しの強くまた蒸し暑い江南地域では、庭園の園路として回廊を作ります。壁のない回廊もあれば片側に壁のある回廊もあります。ただし、片側に壁がある場合でも、通風をよくするため壁に窓を付け、この窓に装飾をすることで庭に変化を付けています。窓については、また、後に触れます。
 一方、回廊自体も直線的なものは少なく、曲がったり曲線を描いたりして庭のアクセントにしている場合が殆どです。回廊に角度をつけることにより、当然のことながら回廊からの景観も変わります。この景観の変化に気を配りながら、客人が庭の美しさを発見できるように回廊に角度をつけるのです。その変化には右左という二次元的なものだけではなく、滄浪亭(上の写真)のように上下を加えた三次元的な変化もあります。

揚州・个園の抱山楼


 さらに、清の時代になると、私家庭園(邸宅兼庭園)が増え、庭園の面積も狭くなってきたことなどから、庭園を立体的に見せる工夫が見られ始めました。すなわち、建物を二階建てにしたり、回廊を二階にも造ったりして、同じ景色を異なる角度から楽しませるということが流行ってきたのです。
 この傾向は、例えば、蘇州の耦園、同里の退思園、揚州の个園何園といった清代の庭園に共通しています。特に退思園では、その効果が最大限に発揮されているように私は思います。

蘇州、拙政園の見山楼

拙政園の見山楼と曲橋


 中国庭園では、橋が池とセットで効果的に使われています。橋は、そこに架けるのが便利だから架けるのではなく、そこからの景色が素晴らしいか、その橋を別の地点から見たときに美しいから、そこに架けているというケースがよくありますので、橋があったら立ち止まって周囲を見たり、別の場所から振り返って橋を見たりすると、設計者の意図が分かることがよくあります。多くの場合、観光のとき写真撮影のポイントになるのが橋の上です、

留園の冠雲峰

留園の冠雲峰(太湖石)


 中国庭園の次のパーツは石です。中国庭園では、太湖石と黄石がよく使われています。
 黄石は築山や護岸に使われていて味わいのある景観を作り出します。
 一方、太湖石は、石単体で庭に配置されることがよくあります。太湖石は、太湖の湖底から採られる石で、長年太湖の水によって浸食された結果、多くの穴が開いて複雑な形をしています。江南地方では、「透、瘦、漏、皺」が太湖石を評価する四大原則だと言われています。すなわち、大きな穴や多くの穴が開いていて反対側が見えていて、かつ、細身で皺が複雑な太湖石が、良い太湖石だと言われているようです。
 その意味では、上の写真にある留園の冠雲峰は細身の大きな太湖石で、大きな穴がいくつも開いていて、しかも、それが石の上部にあって目立っています。確かに見事な太湖石です。



拙政園、琵琶園の円洞門

拙政園、琵琶園の円洞門


 洞門もまた、中国庭園らしさを感じさせるパーツです。洞門とは、穴を開けた門という意味で、上の写真のような丸い同門は円洞門と呼ばれます。
 通常、洞門の手前と向こうでは、趣きの異なる庭園があって、それを仕切る壁に通路として洞門を作ることになります。この洞門はそうした意味で通り道ではあるのですが、この洞門を額縁として景を見た場合、それがまさに一幅の絵のようになる位置に洞門を作るのが一般的です。したがって、洞門を抜けるときは、その前後から洞門を通して見える景色を確認することが、中国庭園を楽しむポイントの一つになるわけです。

網師園の松と鶴の鋪地

網師園の松と鶴の鋪地


 上の写真は、網師園にある松と鶴の鋪地です。鋪地というのは、日本でいうと敷石です。中国庭園では、鋪地のデザインが多種多様です。小石をデザインして張り付けたものや、瓦やガラスなどを使用しているものもあります。特に、江南庭園において、鋪地のデザインはモダンなものが少なくなく、幾何学的であったり、絵画的であったりします。どの庭園でも美しい鋪地が多く、見ていて心が和みます。

留園の回廊と窓

留園の回廊の窓


 最後に紹介するパーツは窓です。窓は通風や採光という機能を果たしながら、装飾という重要な役割も担っています。
 窓は大きく三種類に分けられます。第一に空窓です。四角や丸や六角形、時にはひょうたん型などに切られた窓で、時には花瓶やひょうたん型に切られた窓もあります。第二に、漏窓です。漏窓は空窓に装飾を施した窓で、これら二種類の窓はガラスが入っていないので、通風の機能を担っています。三つ目は花窓です。花窓とは枠が木枠になっていて、中に模様が入っているものです。主として窓の外の景を額縁効果を付けて見せる仕掛けのようなものです。漏窓と違うのは、花窓にはガラスが入っているということです。通風の機能はありませんが、採光の機能は担っています。
 上の写真(留園の回廊)であれば、右4つが漏窓で左二つが空窓です。

留園の五峰仙館

留園の五峰仙館


 中国庭園の魅力について記してきましたけど、最後に建物について、お話しします。
 蘇州の中国庭園は、そもそも個人所有の庭園で客人を招いてもてなす場所です。したがって、必ず客間といいますか、メインゲストホールといいますか、そういった部屋・建物が用意されています。それらの建物の中には、質素なものもありますが、一般的には豪華でかつ主人の趣味をふんだんに取り入れたものが多いようです。
 例えば上の写真にある留園の五峰仙館は、楠木という高価な木材で作られた留園でも最も豪華な建物で、広々とした大広間があります。沢山の客人が招かれたに違いない場所です。留園という庭園は、その豪華さが売り物の庭園ですから、建物の材料、装飾、調度品、どれをとっても本当に豪華です。
 建物では、眺めの良い場所に建てられる亭や、主人の趣味が色濃く現れる書斎なども見所です。
留園の蓮の花

留園の蓮の花


 いろいろと蘇州の中国庭園(蘇州古典園林)の楽しみ方として、私なりの考え方をいろいろと記してきましたが、あまり難しく考えず、美しいものを素直に感じようとする気持ちを持って、見学されることが大切だと思います。そして、季節季節により庭に咲く花なども楽しみながら、それぞれの庭の主人が描いた理想郷を肌で感じてもらいたいと思います。


<蘇州古典園林の魅力>


まず、こちらからご覧ください
蘇州旅行指南(蘇州旅行の楽しみ方)
蘇州古典園林を見る前に
蘇州古典園林(中国庭園)の楽しみ方 

蘇州への行き方(上海・蘇州間の移動)についてはこちらを参照