蘇州の名庭園、留園を3部構成で紹介しています。 留園(1)では、大門から入り、「花歩小築」を見ながら涵碧山房に至り、蓮の花が咲く留園の池などを見てきました。また、留園(2)では、池に浮かぶ小舟での中国琵琶の演奏や五峰仙館などを見て、豪華絢爛な留園の一端を感じました。このページでは、太湖石の名石、冠雲峰を中心に、その他の留園の見所を紹介していきます。 |
林泉耆碩の館 |
五峰仙館から留園をさらに奥に進むと、林泉耆碩の館があります。林泉耆碩の館も鴛鴦(えんおう)式といわれる建物で、この広間を南北二つに分けています。すなわち、中国の封建社会では、男女は親しくやりとりをせず、男性の客は男性の主人が、女性の客はその夫人が接待をしなければならず、したがって、男女の客をもてなすために、それぞれ異なる広間を使わなければならなかったということです。 上の写真で、建物内の円洞門をくぐると反対側の広間に入ります。 |
林泉耆碩の館を南北に分けている壁にある花窓です。一つ前の写真で、中央上に横長の額があり、その両側に円洞門があるところまで見えますが、その両側にこの花窓があります。 花窓とは枠が木枠になっていて、中に模様が入っているものです。漏窓と違うのは、花窓にはガラスが入っているということです。 この花窓のガラスには絵も入っていて綺麗ですが、実は林泉耆碩の館の北側には巨大な太湖石、冠雲峰があって、この窓越しにその冠雲峰が見えるようになっているのです。この花窓の代りにここが木の壁であったならば、女性の客人は広間から冠雲峰は見ることができませんし、採光の面から考えても、特に北側の広間では昼間から暗い部屋となってしまいます。男尊女卑という中国封建社会の思想に準拠しつつも、心憎いばかりの設計だと思います。 |
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太湖石の名石、冠雲峰 |
そして、冠雲峰です。 高さは高さ6.5メートルあり、蘇州の庭園の中でも最大のものだとされています。この太湖石はその奇怪な姿により、角度によって印象が異なります。 ただ、こういった自慢の石や自慢の池などの前には、必ず平台(へいだい)という石でできた平らな台があって、当然ながら眺めが最も良い所に平台が設置されますので、平台からの眺めが庭の主人が最も自慢したい眺めなのです。この林泉耆碩の館の前の平台はまさに冠雲峰を見るための平台です。上の写真もこの平台から撮影したものです。 |
今度は平台から少し後ろに引いて、林泉耆碩の館の南側広間から冠雲峰を見てみましょう。冠雲峰を囲むように建物が建てられています。時計回りに左から紹介してみます。 まず、左側の東屋が「冠雲台」と名づけられた亭で、どんな気候でもこの冠雲峰が美しく見えるという自慢の亭なのでしょう。 太湖石(冠雲峰)の正面後ろの建物が冠雲楼という建物で、今は茶館として使われています。旅行者としては、ここでお茶なども飲みながら、ゆっくりと冠雲峰を鑑賞するだけでも幸せです。 そして、冠雲峰のすぐ右にあるのが冠雲亭で、おそらくはここからの冠雲峰の眺めも主人の自慢の一つなのでしょう。 さらに右側の建物が佇雲庵で、客人をもてなすのに使われた建物だと思います。 要は、冠雲峰は、四周どこからでも見せたくなる太湖石なのです。 |
別の角度から冠雲峰を見てみました。 太湖石は、長年太湖の水によって浸食された結果、多くの穴が開いて複雑な形をしています。江南地方では、「透、痩、漏、皺」が太湖石を評価する四大原則だと言われています。大きな穴や多くの穴が開いていて反対側が見えていて、かつ、細身で皺が複雑な太湖石が、良い太湖石だと言われているようです。その意味では、冠雲峰は細身の大きな太湖石で、大きな穴がいくつも開いていて、しかも、それが石の上部にあって目立っています。確かに見事な太湖石です。 |
さらにアップして見た冠雲峰です。 価値のある太湖石の定義、「大きな穴や多くの穴が開いていて反対側が見えていて、かつ、細身で皺が複雑な太湖石」を満たしていますね。 |
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別の角度から冠雲峰を見ますと、後ろにもう一つ、巨大な太湖石が見えます。この庭には、3つの巨大太湖石があって、それぞれ「冠雲峰」「瑞雲峰」「岫雲峰」と名づけられています。冠雲峰の後ろに見えるのは、瑞雲峰です。 |
こちらが岫雲峰です。岫雲とは、洞穴のような穴の開いた雲のことを言います。冠雲峰の東南に座しています。 高さ4.5mの太湖石で、こちらは穴の数が大変多い太湖石です。 |
瑞雲峰です。高さ3.8メートルで大きな二つの穴があるのが特徴です。 私は瑞雲峰の形は良い形だと思います。この太湖石は細身で穴が大きいところに特徴がありますが、高さが低いので、中国人の受けが悪いのでしょうか。日本人の感覚としては左右のバランス感もあって、この太湖石は良いと思います。でも、中国江南地方で太湖石を評価する基準、「透、痩、漏、皺」で考えると、左右バランスなんて基準はないのですね。 |
同じ庭にある冠雲亭という亭から見た冠雲峰と冠雲台方面です。冠雲峰も後ろから見ると、ちょっとのっぺりしています。上のほうの丸い穴がなかったら、冠雲峰だと気づかないくらいです。 |
冠雲亭の脇にも良い形の立派な太湖石があります。 とにかくこの庭は本当に見事なものなのですが、いつも観光客が多くてゆっくりと見ることができません。この日はちょうど急に大雨が降ってきて天候が悪くなったので、先ほどまで大勢詰め掛けていた観光客が留園内の別の場所へ移動したようです。光線の加減が悪くて 写真は綺麗に取れませんが、留園の庭の雰囲気はじっくり味わうことができます。 |
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留園の茶楼で一休み |
実はこの日、私は冠雲峰の正面後ろの建物、冠雲楼にある茶楼で、雨宿りをしていました。雨が降らなくても、この茶楼で中国茶を飲みながらゆったりと留園の雰囲気に浸ろうと計画していたのです。太湖近郊の銘茶、碧螺春を飲み、雨が上がるのを待っていたわけです。 |
この茶楼は、そもそも留園の建物である冠雲楼でお茶を飲めるわけですから、良い思い出になります。店内も絵や詩が飾られていたり、六角形の花窓があったりで、雰囲気は上々です。留園の散策に疲れたら、ここで一休みするのはおすすめです。 |
そうこうしているうちに、裏手の方から二胡の調べが聞こえて来ました。二胡の調べに誘われて行ってみると、「還我読書処」と名づけられた建物の裏手で、女性が二胡を弾いていました。留園は演出上手ですね。中国庭園のムードがいやがおうにも高まります。 さて、「還我読書処」とは、良い建物の名前ですね。冠雲峰やその周りの池を見ながら我に帰って読書をする場所なのでしょう。こんな場所で本を読めたら幸せでしょうね。 |
しばらくすると、琴の音が聞こえてきました。こちらに戻ってみると、優雅に琴の演奏が行われていました。留園のこうした演出は静かに観光したい人にとってはやりすぎにも思えますが、観光客としては良い思い出になるので嬉しい限りです。 |
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鋪地(敷石)が素晴らしい留園東側の庭園 |
東側の庭園に抜ける円洞門です。 留園には建物ごとにも小さな庭園がついていたりしますが、回遊式の庭園としては、東側の庭園が最も見事です。回遊式の庭園という言い方は日本庭園で使われる言い方ですが、土地の広さを生かして池や築山、 茶屋などを入れ、それらを巡りながら全体を観賞する方式の庭園を指します。 この円洞門の手前から見ると、左の竹林がアクセントとして効いていますね。 |
円洞門を通して見る東側の庭園です。 東側の庭園は、冠雲峰の東裏にあるのですが、冠雲峰を中心とした力強い景観とは異なり、静かな雰囲気を持った庭園であることが洞門を通して伺えます。洞門を通して見せる景色には、設計者の強い意図が働いています。 |
東側の庭園です。園路に沿って太湖石や黄石がふんだんに使われています。ここの太湖石も見事なものですが、冠雲峰を見た後には感動が弱くなってしまいます。とは言え、この園路に沿って歩いていると、心落ち着く庭園です。 |
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一つ上のデザインは、鉢植えの花、そしてすぐ上が蛙。 どちらも可愛らしいデザインですね。これらがいつ作られたかわかりませんが、その原型となるデザインが明や清の時代に作られていたと考えると、当時の人々のモダンなセンスに感心しないわけにはいきません。 |
これは、大樹の下の鶴と鹿です。何か伝説の一部を絵にしたものでしょうか。 こんな感じで、東側の庭園では、太湖石などの石や樹木、花、林などを見ながら一周し、鋪地を見ながらも一周してしまいます。そして、また新しい発見をしてしまい、もう一周ふらふら歩いてしまいます。奥行きの深い庭園です。 |
この変わったデザインの石は石筍(せきじゅん)と言います。留園北側の庭園にあったと記憶しています。細長い柱のような石柱を組み合わせてデザインするもので、中国江南庭園では時々見られるものです。 |
留園の広い園内を一周してきて、また、入口付近の池の周りに戻ってきました。 相変わらず、蓮の花がきれいです。思わず、楊万里の詩を思い出してしまいます。 |
舞台上では二人の演奏者の掛け合いで蘇州評弾が演奏されています。 留園は見所が多く敷地も広いものですから、この日も3時間近く見学していましたが、建物、池、花、石、窓そして鋪地など、まだまだ見たりない気持ちです。また、船の上の中国琵琶、冠雲楼近くの二胡、そして、ここでの蘇州評弾と言った具合に、演出が良くてお客さんを飽きさせません。来るたびに、去りがたい気持ちで留園を後にしています。 また、訪れたい庭園です。 |
関連するページ留園(1) : 涵碧山房と蓮池留園(2) : 小舟での中国琵琶と五峰仙館 留園(3) : 太湖石の名石、冠雲峰 |
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