蓮池周辺の回遊 |
蘇州の名庭園、留園を3部に分けて紹介しています。留園(1)では、大門から入り、「花歩小築」を見ながら涵碧山房に至り、蓮の花が咲く留園の池などを見てきました。そして、築山の上にある舒嘯亭から見る景色も紹介しました。このページでは、舒嘯亭から築山を下り、池を涵碧山房の反対側から見ていくとともに、池に浮かぶ小舟で奏でられる中国琵琶の演奏などを紹介していきます。 |
築山の上から下っていく回廊です。雨の降る日などはこの回廊を下り、池の周りを回遊することが出来ます。高さや向きに変化をつけることにより、回廊からでも留園の変化に富んだ庭の素晴らしさを感じることが出来ます。 |
舒嘯亭から築山を下ったあたりにある回廊です。この池を囲むように回遊路が設置されていて、涵碧山房から見た場合は正面の築山の背後のあたりには、こうした回廊が続いています。微妙な角度と傾斜が庭に変化を与えてくれます。 |
しかしながら天気の良い日は、まずは回廊は使わずに、池に沿った小道から池の風景を満喫しながら歩きましょう。舒嘯亭から一度湖岸に下り、さらに可亭へと上るところです。可亭への小道は視界が開けていて、石の階段を一歩一歩登るごとに池の景色が変化していきます。 |
上の写真の辺り、すなわち、涵碧山房の対岸から見る涵碧山房です。涵碧山房が茶色の平屋建て建物、その左の涵碧山房と一体となっている白い二階建て建物が明瑟楼です。さらに左に池に向いて口を開くように突き出している小さな建物が緑隠という建物で、留園の入口から涵碧山房に向かって進むときに、はじめて庭園の姿を一望できるのが、緑隠です。ここから緑隠を見ると、池に向かって建物の口が開き、空窓が左右に開口していて、三方を見通せる建物であることも分かります。 |
涵碧山房の正面の低い築山の上に建つ建物、可亭から見る涵碧山房です。少し高さが異なると、庭の見え方が変わってきます。 留園(1)では、明瑟楼と涵碧山房という二つの建物が画舫形式で建てられていることを説明しました。画舫形式とは、上の写真で見るように、明瑟楼の屋根の形や涵碧山房を合わせた形を船に似せて作ることを指します。桃源郷を探しに船の旅に出るという画舫形式の建物は縁起の良い建物とされていますので、そうした縁起の良い建物に客人を招き、もてなすわけです。 |
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蓮池に浮かぶ小舟での琵琶演奏 |
可亭の下から小蓬莱方面を見たところです。池に突き出るように作った小道と橋が良いアクセントになっています。また、湖面に映る緑の影や曲渓楼の白い建物が、庭園をカラフルにしています。 蘇州旅行は上海からの日帰りになる人も多いのですが、この留園や拙政園、網師園といった名園を鑑賞するためには、庭園のあちこちを歩いてみて、じっくりとゆったりと庭園の気分に浸らないと、その良さはなかなか分からないものです。蘇州古典園林の観光というと、観光ガイドが庭園のなかの有名な場所を何箇所か案内し、ちょっと分かりづらい日本語で解説する、そしてその何箇所かのスポットを最短距離で歩くといったものが多いのですが、むしろ観光ガイドなどつけずに自分の気の向くまま歩いた方が、蘇州古典園林の良さを理解できると私は思います。いいえ、そうしないと、蘇州古典園林の良さは分からないのです。 |
可亭のある低い築山を下ると、涵碧山房の方からちょうど一艘の舟が池に出てきました。中国琵琶の音色が船の上から流れてきているようです。 |
その音色に引き込まれながらカメラのズームで捕らえると、中国琵琶はまさにその小舟で演奏されていました。贅を尽くした庭園、留園にふさわしい演出です。 |
舟は観光客が多く集まっているところで止まっていたので私もその方向に歩いていったのですが、しばらくすると舟はまた遠くに進んでいってしまいます。 |
小舟はどんどん遠くへ行ってしまうのですが、舟を目で追いかけていくと、この池の風景がだんだん見えてきます。池の護岸に使われているのは黄石で、この積み上げ方は明代のものだと思います。 留園の創設は、明の万暦年間(1573~1619)で、清代の乾隆年間(1736~95)に官僚の劉恕が入手し手を加え、1798年に完成して劉園と名づけられたという経緯にあります。おそらくは、この護岸については明代に作られた庭園の時代から引き継がれているものだと思われます。 |
小舟が近くに戻ってきました。音をお聞かせできないのが残念ですが、中国琵琶を爪弾きながら、時々この女性が切なく歌います。留園の風景も優雅ですが、この女性の奏でる調べや歌も優雅です。明や清の時代は、主人がここ留園に客人を招きいれ、こんな情景の中で宴を盛り上げていたのでしょうか。 |
池の中を歩く橋や道もありますので、納得がいくまで池の周りを散策してみましょう。ゆっくりと歩きながら、時々周りを見渡しながら歩くと、いろいろな発見があって、留園の魅力にとりつかれるはずです。小蓬莱越しに涵碧山房方面を見たところです。 手前の池にせり出した亭は濠濮亭と言います。 |
曲渓楼の左にある清風池館です。清風池館は池にせり出した「?」という中国古来の建築方式で建てられた建物です。「?」という建築方式では、建物の半分は陸地に半分は水上に建てられています。通常、眺めの良いところに前が開けた形で建てられています。ここ清風池館も眺めが良いところで、池を渡る風に当たりながら、しばらく留園の庭園の美しさに浸るのは最高の贅沢ではないでしょうか。 一つ上の濠濮亭よりはるかに良い眺めが楽しめます。 |
清風池館から見える池の風景で、可亭方面を写したところです。可亭の下のあたりの護岸の石組はこの留園の中でも最も見事なものです。 |
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見事な空窓、洞天一碧 |
それでは、池を離れ、五峰仙館や名石、冠雲峰等のある方面へ歩いていきましょう。 五峰仙館の近くにある太湖石を中心にした石組みです。石だけで築山にしているものです。留園に冠雲峰などの名石がなければ、この太湖石も有名になったのでしょうが、とにかく留園では、後ほど見ることになる冠雲峰という太湖石があまりにも有名ですが、冠雲峰以外にも沢山の太湖石が効果的に庭園に配置されています。そんなこともあって、この石組みも影の薄い存在になってしまいます。 |
上の石組みの中心にある太湖石です。 太湖石とは、太湖周辺の丘陵から切り出される穴の多い複雑な形の石です。太湖付近の土地はかつては太湖の中に沈んでいたもので、長年太湖の水によって浸食された結果、石灰質の石に多くの穴が開いて複雑な形をしています。蘇州をはじめとした江南の庭園ではこの太湖石が重宝され、また、江南の庭園を見た皇帝や都の官僚たちも数多くの太湖石を京杭運河を使って北の庭園へと運んでいます。蘇州は太湖に近いため、この太湖石が珍重され、庭園にも多く使われています。蘇州の四大庭園の一つである獅子林がその代表的な庭園ですが、この留園にも見事な太湖石が配置され、留園の一つの見所となっています。 |
五峰仙館から奥の方は建物が幾つも建てられていて、その間を回廊が迷路のようにつながっています。その回廊の横にある小庭園も見事ですし、また、回廊に設けられている窓も見事です。 上の写真は、留園の回廊の漏窓です。漏窓とは窓枠の内部に模様を組んだもので、ガラスとかは入っていません。一般的に白壁の中に作られていて、一種の装飾でもありますが、通風や採光の面の機能もあります。 他の蘇州庭園と同じく、この留園においても、漏窓の形は二つとして同じものはありません。幾何学的な模様もあれば絵画的な模様もあります。 |
また、空窓といって、様々な形に切られた模様のない窓もいくつかあって、そうした窓からは、時々はっとするような庭の風景を見せてくれます。 上は「静中観」と名づけられた空窓です。 |
これは、「洞天一碧」と名づけられた空窓です。額縁の中の絵画を見るようです。 |
「洞天一碧」の空窓から見える木を後ろから移してみました。こんな狭い空間に立派な木が育っています。木の陰に見える窓が「洞天一碧」の空窓です。 |
狭い内庭に植えられた青々とした竹林にも驚かされます。 |
中庭に育つ竹林です。こんな狭い空間に、すくっと伸びた竹林を見るとその美しさに感動します。青々とした竹の葉に注ぐ太陽の光がとてもまぶしく感じます。 竹林の前の石筍(タケノコに似た形の縦長の石)も、竹林だからこそ意義あるものに見えます。生きる強さが感じられる中庭です。 |
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鴛鴦(えんおう)式の五峰仙館 |
そんな回廊を歩いていると、五峰仙館に着きます。五峰仙館は、留園の中央にあって、客人をもてなすための建物として使用された建物です。五峰仙館は楠木という高価な木材で作られた留園でも最も豪華な建物で、広々とした大広間があります。沢山の客人が招かれたに違いない場所です。鴛鴦(えんおう)式といって、建物がついたてなどで南北二つの広間に分けられていて、男尊女卑の考えのあった中国では、部屋を男女で使い分けたと言われています。 |
五峰仙館には、建物内も見るからに豪華な絵や彫刻、陶器などに囲まれていて、贅を尽くした留園を代表する建物になっています。この写真では、建物が相当に広いこと(左の壁に女性用の部屋もあります。)や、部屋の壁の至る所が絵画や書で飾られていることが分かると思います。 |
さりげなく置かれている陶器も美しい絵柄で、大変な価値があるのではないでしょうか。 |
また、五峰仙館南側には、これまた立派な太湖石が並べられた内庭(内庭と呼ぶには広すぎますが。)があって、これが神仙島といわれる五仙島の形をしていて縁起が良いということらしいです。 |
縁起が良いということになると、中国人観光客が群がって写真を撮影したがります。 留園も9時くらいになると、こんな感じで観光客だらけになるので、開園する7時45分直後に入園して9時前には一回りできるスケジュールを組んだ方が、ゆっくりと見学できると思います。 |
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