殿春簃 |
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殿春簃は網師園の北西部にある建物で、大池北西にある曲がり橋の脇にある四角い洞門を入ったところにあります。場所を確認したい方は、この地図を参照してください。大池とは壁で区切られていますので、大池の見えないエリアになります。 上の建物が殿春簃で、手前の鋪地が殿春簃の内庭ということになります。この写真で気づいてほしいことは、建物の前の平台です。平台は、眺めの良い所、立ち止まって景色を見てもらいたい所などに造るのが一般的ですが、この平台の前には内庭の鋪地しかありません。実は、ここにはかつて芍薬の花畑があったのです。殿春とは芍薬のことです。かつては晩春になると芍薬の花がこの殿春簃の庭を埋めていたそうで、殿春簃の名前もこの芍薬の花から来ていることになります。 |
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殿春簃の平台の横から、下り坂の狭い回廊沿いに造られた漏窓です。綺麗なデザインです。 それ以上に驚かされるのは、この狭い網師園の中を広く見せようとする設計者の工夫です。この漏窓の向こうは林になっています。地図を見ると分かるのですが、大池西北の曲がり橋と看松読画軒との間の林が、この花窓越しに見えるのです。大池を花窓越しに見せないことで、独立した庭園としての殿春?の価値を高め、網師園全体としても大池だけが見所の庭園ではないということをアピールしているのです。 かつての網師園のもう一つの顔、それは、殿春簃の芍薬の花畑だったのかもしれません。 |
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殿春簃の内庭です。今は、庭の周りが黄石と太湖石を組み合わせた石組みになっていて、庭の中には美しい鋪地(ほち)が敷き詰められています。広くはないですが、センスの良い庭で、何か心を穏やかにさせてくれる庭です。「余生をのんびりと暮らしたい」との当時の所有者の思いが伝わってくるかのようです。奥に見えるのは冷泉亭。冷泉亭の下には立派な石が置かれています。冷泉亭の屋根の跳ね上がり方も立派ですね。 ただ、かつての芍薬の花畑に比較すると、ちょっと味気ないかなという気もします。いつの日か、芍薬の花畑を再現してくれたら、網師園がもっと魅力を増すと思います。 |
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殿春簃の内庭にある小さな築山です。狭い庭ですので、控えめですが、背景の壁にあるひし形の漏窓が一体となって、独特の景観を作り出しています。「小さいけれどもその中に景観を沢山作りこむ」江南庭園のお手本みたいな庭園です。心落ち着く庭園だと思います。 |
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この殿春簃の内庭には、太湖石も置かれていますが、網師園でずっと黄石ばかり見ていたせいか、何かしっくり来ないです。 ここでも、背景の壁に漏窓が見えます。漏窓はガラスのない飾りの付いた窓のことを言いますが、装飾機能のほかにガラスを入れないため、通風機能もあります。殿春簃の内庭は広くないのに壁に囲まれていますから、漏窓が多用されているのでしょう。 |
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冷泉亭に置かれている石です。見るからに見事な石です。江南での石の評価は「透、痩、漏、皺」が四大原則だとされています。そういう意味では、中国人にとってはもっと評価の高い石でしょうね。 1981年にニューヨークのメトロポリタン美術館に長期展示された「明軒」という中国庭園は、ここ殿春簃の庭をモデルに製作されたものだそうです。 |
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殿春簃内庭から大池方面の框景 |
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殿春簃から大池方面に戻ろうとすると、ここに、網師園で最高の框景がありました。框景というのは、額縁に入れた景色ですが、窓や洞門を額縁のように見せて景色を見せることも指します。ですから、框景というのは、網師園の大池方向の風景を洞門を使って切り取り、一幅の絵にしてしまう手法とも言えます。どこに立つかによって、見える景色が変わります。ぜひ、網師園に来たら、ここで立つ位置を変えながら框景を楽しんでみてください。 洞門の上には「真意」の文字が書いてあります。 |
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洞門の先のどこの部分を切り取って額に入れるかは、見る人が立つ位置によって変わります。私はこの場所、曲がり橋を中央に見ることができるこの景色が好きです。 四角形の洞門の先には、一段下がったところから曲がり橋が走り、竹外一枝軒へと向かっています。曲がり橋の右側に大池が見えます。そして、大池の向こうには、東半亭や岸辺の草の緑が見えます。さらに、大木が橋の上を斜めに伸びて、その葉が空を埋めています。 計算され尽くした設計による中国庭園の美をこの框景に見ることができます。 |
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網師園の他の見所 |
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さて、殿春簃については内庭ばかり紹介して建物を紹介していませんでしたが、上の写真の花窓があったりして、殿春簃の建物内も優雅で洒落ています。 |
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大池に面していない建物として、いくつか紹介していきます。 まず、看松読画軒です。看松読画軒の花窓も見事です。建物内は暗く、まさに花窓から入る光だけが室内を照らします。花窓の向こうには、石や草花があって、目が暗さに慣れるにしたがって、額縁の中の絵が浮かび上がってくるかのように鮮明に見えてきます。 なお、看松読画軒は殿春簃の建物と隣接していますが、殿春簃は壁で囲まれたエリアにあって独立していますので、看松読画軒と殿春簃の間は、相互に行き来できません。大池に一回出て、回り道しなければなりません。 |
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こちらは、網師園の集虚斎の室内です。ここも部屋の中が暗く、目が慣れてくると分かるのですが、部屋の中は数々の書画で飾られていて、当時の所有者の趣味の良さが感じられる室内です。 |
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こちらは梯雲室。一面が漏窓になっていて、やわらかい光が室内に広がります。集虚斎のさらに奥に位置していて、十全街方面への出口に行く途中です。詳しくは、地図を参照してください。この梯雲室の内庭には、後ほど紹介する有名な鋪地(敷石)があります。 |
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紹介するところがなかったので、ここで付け足しのように紹介しますが、網師園の漏窓や花窓は、細微で印象的なものが少なくないと思います。花窓については、このページでいくつか紹介しましたので、ここでは花窓を紹介しましょう。この窓は単純なようで結構複雑なデザインです。こんなに彫っているのに、左右対称なんですね。 |
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これは、花瓶の形なんでしょうか。花瓶の中の花が開いているような気がしますし、何か台の上で温めているようにも見えますが、皆さんはどのように感じられますか。このように、網師園には、凝った花窓や漏窓が沢山ありますので、見逃さない様にしてください。 |
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先ほど紹介した梯雲室の内庭です。回廊と黄石の岩山などで囲まれていて、下は鋪地が敷き詰められています。写真右がこの内庭への入口ですが、内庭の一番手前に大きな鶴と松の鋪地(敷石)があります。回廊の幅と比べると、その大きさも見当が付きます。 |
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この松と鶴の鋪地は、以前は網師園の入口にあったといわれていますが、今は梯雲室内庭の入口に設置されています。松と鶴の組み合わせは、中国においても長寿を表す吉祥文様です。ここでも「余生をのんびりと暮らしたい」との当時の所有者の思いが伝わってくるかのようです。 網師園では観光客も拙政園や留園などと比べるとずっと少ないですから、静かに庭を鑑賞できます。急いで回れば30分もあれば見れる庭園ですが、庭の静観地点でぜひ足を止めて網師園の心を見て欲しいと思います。留苑や拙政園のような派手さはないですが、小さな中国庭園らしい繊細で緻密な工夫が、見る人の心をとらえるはずです。 |
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