荷風四面亭から見山楼へ
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ここまで、「拙政園〔1〕」の中で、拙政園見学のポイントとして「中園を中心に見学する」「中園見学の起点は遠香堂」「遠香堂から枇杷園を抜けて、時計と反対周りに回る」といったことを挙げています。そして、「拙政園〔2〕」では枇杷園と東半亭からの借景まで、そして拙政園〔3〕では梧竹幽居から雪香雲尉亭を巡り荷風四面亭に至る道を紹介してきました。
このページでは荷風四面亭から見山楼を見学し、見山楼の横にある柳隠路曲を歩いてみましょう。
なお、拙政園の中園の地図は、こちらをクリックすると新しいウインドウに開きますので、地図を参照しながら読みすすめてください。
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荷風四面亭から見山楼や西半亭(別有洞天)などをつなぐ五曲橋です。この橋を渡って、回廊を右側に進めば見山楼です。
五曲橋から回廊、見山楼や香洲の一帯は、拙政園の中でも最も明るいイメージがあります。広々とした空間もさることながら、建物をはじめとした建造物のデザインが洗練されていることも明るく感じさせる原因なのかもしれません。
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自然と建造物が違和感なくまさに調和しているのも、この一帯の特長です。写真は五曲橋越しに見山楼を見たところです。右の木の裏に荷風四面亭も見えます。池にせり出している黄石の岬も自然です。太湖石を多用し建物や装飾も豪華絢爛な留園とは異なり、まさに自然な山水の景を楽しむ庭園が拙政園です。
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見山楼
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見山楼は中園の北の方にあるのですが、三方を池に囲まれていることもあって、どこからでもよく見えます。遠香堂からも、雪香雲尉亭からも、荷風四面亭からも、五曲橋からも、香洲からも、中園の至る所から見ることができます。その逆に、見山楼も拙政園のあちこちを見渡せる位置にあります。かつては見山楼の二階から蘇州の街が見渡せたとも言われています。
見山楼という名前は、晋の詩人、陶淵明の飲酒詩二十首之五の「采菊東籬下 悠然見南山」から採ったとされています。
結廬在人境 盧(いおり)を結んで人境に在り
而無車馬喧 而(しかも)車馬の喧(かまびす)しき無し
問君何能爾 君に問う 何ぞ能く爾(しか)るやと
心遠地自偏 心 遠ければ 地 自(おのず)から偏たり
採菊東籬下 菊を東籬(東の垣根)の下に採り
悠然見南山 悠然として 南山を見る
山氣日夕佳 山気 日夕(にっせき)佳なり
飛鳥相與還 飛ぶ鳥 相與(ともに)に 還る
此中有眞意 此の中に 真意有り
欲辨已忘言 弁ぜんと欲して 已に言を忘る
陶淵明の飲酒詩は、酒をテーマに書いた詩ということではなく、むしろ酒を飲みながら人生を語るといった内容の詩です。この内容は、日本語では次のように解されています。
いおりを構えているのは、人里の中。
しかもうるさい役人どもの車馬の音はきこえて来ない。
よくそんなことがありうるものだね、と人がいう。
こせこせした気持ちでいないから、土地も自然とへんぴになるのさ。
東の垣根に菊を折り取っていると、ふと目に入ったのは南の山、
廬山の悠揚せまらぬ姿、それをわたしはゆったりと眺めている。
山のたたずまいは夕暮の空気の中にこの上なく素晴らしく、
鳥たちがうちつれてあの山の塒(ねぐら)へと帰ってゆく。
ここにこそ、何ものにもまとわれない人間の真実、
それをねがうものの姿が、私にはよみとれる。
が、それを言いあらわそうとしたその時には、もう言葉を忘れてしまっていた。
見山楼を作った王献臣の心と合い通じるものをこの詩に読むことができます。王献臣が「見山楼」と名づけた理由がよく分かりますね。
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見山楼の内部です。太平天国の時代、蘇州を拠点にした忠王の李秀成が、拙政園をよく愛し、忠王府を拙政園の中に置いたことは良く知られています。忠王李秀成が執務した場所がこの見山楼1階です。
拙政園の隣に忠王府があります。蘇州博物館から入って、奥にあります。太平天国に興味のある方にはおすすめです。
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北西に向かう橋から見た見山楼です。こちらから見た見山楼も良いデザインです。
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見山楼を北東から見たところです。
この角度から見ないと分からないのですが、見山楼の二階に柳隠路曲から来る回廊がつながっていて、なだらかな勾配の回廊が続きます。見山楼の二階は眺めが良いと書きましたが、見山楼は建物の中に階段のない特殊な構造になっていて、二階へはこの回廊からしか行けません。私も行ったのですが、今は、二階に入れなくなっていました。
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見山楼の北に広がる竹林と西園への円洞門です。この辺りも手入れが行き届いて爽やかなエリアです。
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見山楼から北側の道を東の方に歩くと、池の中の小島を遠香堂とは反対側から見ることができます。ここで拙政園の地図をもう一度紹介しましょう。(新しいウインドウで開きます。)
右の島に建っているのが雪香雲尉亭です。こちらから見ると、この島の辺りは自然そのものです。雪香雲尉亭から荷風四面亭、見山楼と巡ってきて、心が世俗からだんだんと離れて、軽くなってきたようなそんな感じがします。ここからの風景は、まだ心が軽くなりきれなかった自分を思い出させてくれます。
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柳隠路曲
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見山楼の二階から伸びる回廊を柳隠路曲と呼びます。上の写真で奥に見山楼の二階が見えて、そこから回廊が軽い勾配で下っているのが分かると思います。回廊の花窓を見ると、一つひとつのデザインが異なっていることもお分かりになりますか。こうした花窓を見ているだけでも拙政園の奥深さを感じてしまいます。
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花窓から柳隠路曲を見たところです。
見山楼の二階から続く回廊は、最初は西に直線的に進み地表部分まで下ると、そこから左に曲がって西園の入口である西半亭まで続きます。柳隠路曲の回廊は、途中でいくつも枝分かれしていて迷路のような構成です。
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柳隠路曲の回廊はくねくねと曲がって進みます。ここまで拙政園を見てくると、その角度角度に意味があるのではないか、見せたい何かがあるのではないかと思って、歩みがどうしても遅くなってしまいます。
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回廊の先に池が見えてきました。池に出て右に曲がれば、拙政園西園の入口である西半亭でもうすぐです。
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