象のテラスはアンコール・トムの中にあって、その時代は王による閲兵が行われていた場所で、象のテラスから広い広場を見ていると、今にもクメール軍兵士たちが姿を現しそうな気がします。ライ王のテラスが象のテラスに隣接しています。 |
象のテラスは王様による閲兵の場所 |
アンコール・トムで私が好きな場所の一つが象のテラスです。象のテラスはバイヨン寺院と同じく、12世紀末にジャヤバルマン7世に築かれたもので、閲兵用の場所として使われています。テラスの土台に象が描かれていることからこの名が付けられています。 |
アンコールの話をしているときにおかしな喩えを出すのですが、実はアンコール・トムを観光していて、急に北京の故宮(紫禁城)を私は思い出してしまったのです。紫禁城は中国王朝の明・清の宮殿で、もともとは元朝の宮殿を明の時代に拡張したものです。15世紀初頭のことです。 上の写真は故宮の閲兵場です。紫禁城は外周が約3.5㎞でアンコール・トムと同じように濠に囲まれています。紫禁城の場合は、もっぱら宮殿として使われていましたので、女官や宦官は数多くいましたが、一般の兵士は閲兵の時くらいしか紫禁城の塀の中に入れませんでした。兵士を含む一般人は紫禁城の周りの街に住んでいて、その街の周りにまた城壁があったという構造の違いがあります。 |
そういった違いはあるものの、こんなに広い閲兵場は当時の日本にはなく、大勢の兵士を王が閲兵するという行為を、中国では宮殿の中で、アンコール王朝は宮殿の隣で行っていたということは、何か類似点みたいなものを感じるのです。いずれにしても、広場を埋め尽くすほどの兵士が屹立する姿は壮観だったに違いありません。 上の写真は、象のテラスの上から、テラス前の広場を見たところです。この広いスペースに兵士たちが整列したわけです。 |
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話がそれましたが、上の写真が象のテラスです。 象のテラスは約3mの高さがあるテラスで、300mくらいの長さがあります。テラスの壁には、その名の通り、象のレリーフがあります。 |
彫られている象の姿もいろいろですが、戦争のために兵士を集めて演説をぶつ場所ですから、そういった性格上、兵士を乗せた象が多く描かれています。 |
この辺りは、3メートルの高さのある壁面を上下二つに分けて描いていますが、戦闘の様子です。御覧の通り、レリーフの保存状態はかなり良好です。 |
このように像が彫られているところもいくつかあります。象が鼻先で持っているものは、花だったり食べ物だったりします。動物園などで見ていると分かるのですが、像が鼻先で何かをつかむときは嬉しそうな顔をするものです。 |
この象の鼻先の表現は、そんな象の気持ち、さらに言えば、兵を送り出したり凱旋して戻った兵を迎えたりするときに、国のために命をかけて戦った兵士たちへの王の御礼の気持ちを表しているのかも知れません。 |
鼻の先に下げているのは、蓮の花のつぼみです。 この時代のクメールやシャムでは、象は日常生活では移動時の乗り物であり、荷物を運ぶ輸送手段でもありましたし、戦争時には戦車の役目もしていました。そうした当時の人々とは切っても切れない象が、政治的にも重要な場所であるこのテラスに刻まれるということは、考えてみれば極めて自然なのです。 |
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上の写真は、象のテラスに続くように築かれているライ王のテラスに鎮座するライ王像のレプリカです。三島由紀夫が「癩王のテラス」という戯曲を書いていますが、その癩王のテラスがここであり、戯曲の中では、バイヨンや象のテラスを建造したジャヤヴァルマン7世が描かれています。 その三島由紀夫の戯曲の影響を受けてか、このテラスに鎮座するライ王がジャヤヴァルマン7世であるなどという説もありますが、それは誤った理解で、ジャヤヴァルマン1世であるとの説も間違っていたらしいです。どうやら、閻魔大王だというのが正しいようですが、なぜ、その閻魔大王に地元の人がお供えをするのかがまた疑問です。その真相を調べてみると、実は近年になってこの像が閻魔大王だということが分かったけれども、これまでお供えしていたのを急に止めると祟りがあるので継続しているのではないか、などという説まで出てくる始末です。 何が正しいのかはわかりません。 |
そのライ王のテラスは、象のテラスよりも少し高くて6mの高さがあります。上の写真はライ王のテラスから見た象のテラスです。 手前にバルコニーのような形で突き出した部分に象が並び、その上にライオンの像があって、おそらくその後ろに王が立って号令を出していたのだろうと推察されます。 |
そのバルコニーのように突き出した部分を下から眺めたのが、上の写真です。 このバルコニーは結構広いことがわかると思います。 |
バルコニーの下部分の彫刻は半人半獣の兵士でしょうか。上は仏像のようにも見えますが、武器を持っている像もあったりして、よくわからないなあというのが本音です。 |
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象のテラスにあるデバターなどのレリーフ。崩れていたものを修復したものなので、ちょっと見づらいのですが、踊り子たちが兵士たちを和ませている様子などが描かれています。 |
ガルーダをはじめとした半神半獣もテラスを支えています。 これから戦争に行く兵士たちを鼓舞したり、あるいは戦争から凱旋した兵士たちをねぎらったりした場所ですから、威厳と神がかり的な仕掛けが必要だったのでしょう。 |
この一段高くなっているところの裏手に王宮があります。恐らくは王宮から出てきた王が、この一段高いスペースに立って、閲兵をしていたのだろうと推測されます。 |
そして、この広いスペースには、王族や官僚などが立ち並び、兵士たちを見守っていたのでしょう。 もともと森の中に埋もれていたアンコール・トムですが、この部分だけはそうした雰囲気を出すために、あたかも兵士たちが整列し鬨の声を上げるのではないかと思わせるくらい広い空地スペースを作っています。この象のテラスに立つと、目の前にクメール軍たちの力強い姿が目に浮かぶようです。 |
こちらが王宮への入口です。現存しているものしか私たちは見ることができないわけですけれども、アンコールワットなどの寺院に比較すると、いささか地味な印象を受けます。 いずれにしても、アンコール王朝の時代には、王宮の手前で王による閲兵が行われていたのです。 |
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